スーパーカブで日本一周

  523日間に渡ったスーパーカブ90での日本一周の記録、およびその後日談を語ります。

あの日、旅空の下で   1.トップギヤに入らない

2009年5月10日、旅立ちの日。早朝五時半。
あの朝のことは今でも隅々まで鮮明に覚えているが、中でもとりわけ印象に残った出来事は走り始めて僅か十数秒後、唐突にやって来た。

狭い路地のどん突きにあったアパートの前を走り出し、最初の角を右に折れる。軽い坂道を登って、その先だ。いつもならここでトップギヤにシフトアップする。
トップギヤ、などと言ってもスーパーカブ90のそれは所詮3速。それも、エンジンが極低速から粘る上にギヤ比も低いものだから、ごく狭い住宅地の路地裏でも3速だけで走れるくらいで、1速と2速が使われるのは発進の時くらい。実際のところ全走行時間の優に90%以上は3速ギヤで走っている筈だ。
ペダルを踏み込んでガシャッと3速ギアに入れる筈の左足が、動かなかった。

余韻、を味わいたかった。
十年間も住み、しかし二度と戻らない家はもう視界には無い。今このカブに積まれている物だけが自分のすべてだ。3速にギアを入れたその瞬間、船が防波堤から飛び出して波に揉まれるように、いよいよ旅の大海原へと漕ぎ出して旅立ちの余韻は消え去る。勿体なかった。
2速のまま速度を乗せて、オンオンとエンジンを唸らせながら、不思議な贅沢な時間を噛み締めながら進んだ。そしていよいよ表通りに出た時、観念したかのように万感の思いを込めてチェンジペダルを踏み込んだ。
さあ往こう。目の前の海はどこまでも続いている。





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あの日、旅空の下で   2.旅人は鍵を持たない

仕事に行く時も、遊びで出掛ける時も、携帯すら持たずにちょっと近所のコンビニへ買い物に行く時でさえ、どんな時でも必ずポケットに入っている物がある。

それが家の鍵だ。
旅立ちの日の朝、朝食におにぎりを買おうとコンビニに立ち寄った。まだ東京都内から出ていない。カブのところに戻り、バイクの鍵を取り出して差し込んだ。すると、ポケットの中にはもう何も無かった。
バイクで外へ出ているのに、家の鍵を持っていない。そう思った時、初めて旅立ちの実感が強烈に沸いてきた。

もう戻る家はない。戻らなくていい。家の鍵なんて持たなくていいのだ。そう思った時、無限の自由を感じ、足元から震え上がった。喜びに絶叫したい気分になった。俺は自由だ。鍵を持たない旅人になった。もう家に帰るなんてしなくていいのだ。
いつもポケットの底に潜んでいて、何の存在感も無かった小さな鍵。そいつがいかに重いものであったか、思い知らされた。背中に羽根が生えたような気分とはまさにこういう事だ。陳腐な表現だが、本当にそう思った。
さあて今日は何処まで行って何処で寝るのか。そして明日は、明後日は…
もう家に帰るなんてしなくていいのだ。





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あの日、旅空の下で   3.役に立ったサイト

旅の道中、ネットからあれこれ情報を収集することを潔しとしない旅人もいるだろう。確かに旅に出てまでネットの虫というのではいささか病的だが、そこはやはり程度の問題ということか。バイクで走行、テントで宿泊となればただでさえ負荷の大きい旅である。ある程度は便利な情報を活用し、日々を快適に健康に過ごしたいところだ。

私の日本一周はパソコンなど持っていなかったので、携帯の小さい画面で見られるものだけだったが、何といっても天気予報。これは沖縄に滞在している時を除いて、一日も見ない日はなかった。
しかしそれ以上に、特に旅の序盤に大活躍し、便利さを痛感したサイトがある。それが「NAVITIME」の銭湯/入浴施設情報だ。ここで「すべてを選ぶ」を選択し、GPS機能を用いて位置情報を送信すれば、今居る場所からもっとも近い、とにかく「風呂に入れる施設」を検索してくれる。
行き当たりばったりに夕方辿り着いたところにテントを張り、宿泊する。そんな日々を続ける中で、こいつは本当に有難かった。

画像 640
私はやれ完全放流式がどうのと温泉にはうるさいが、日本一周の道中ではそんな事は言っていられなかった。入浴後に軽装で汚れずに移動できる車ならまだしも、バイク、それも速度の遅い原付である。実際に必要としていたのは、入浴できれば何でもいいからとにかく一番距離の近い施設だったのだ。
加えて、私は暑がりの大汗掻きで代謝の良い体質なので、毎日必ず風呂には入りたかった。冬場でも毎日風呂に入らないとベタベタして気持ち悪いし、自分の体が臭くて嫌になる人間なのだ。
ツーリングマップルにも日帰り入浴が出来る施設が結構掲載されているが、それはほんの一部であり、何とっても数が足りない。他にも役に立ったサイトは幾つかあったが、一番を選ぶとすれば間違いなくこれだ。

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あの日、旅空の下で   4.埼玉県には住宅がある

「長崎です」
「長崎!いいなぁ。長崎のどこですか?」
「長崎市です。長崎の市街です」
「わあ、いいなぁ!長崎大好きなんですよ。山の上の方まで家があるんですよね」
とか、
「島根です」
「島根県って東西にめちゃくちゃ長いですよね。どのへんですか?」
「益田っていって、本当に西の端っこの方です。何も無い田舎ですよ」
「益田知ってます。津和野の近くですよね。あのあたりの海岸て本当にきれいですよね」
とか、多くの旅人が集まる安宿や北海道のキャンプ場ではまず交わされるのがそれぞれ何処から来たのか、という話題だ。毎夜その話で盛り上がる。

私は日本一周の出発までは東京に住んでいたが、部屋は旅立ちにあたって引き払った。出発の時点で住所は実家のある埼玉県。そもそも実家はバイクで三十分もかからない距離だったし、カブのナンバーも実家の自治体のナンバーだったから、旅先で何処から来たと訊ねられ、埼玉ですと答えるのにまったく違和感は無かった。
ところが、嫌なのはこの手の会話の時だ。
「何処から来たんですか?」
「埼玉です」
そしてここからだ。何の悪気も他意も無く、純粋に知りたいという思いから多くの人が素直にこんな質問をぶつけてくるのだ。
「埼玉って何があるんですか?」
「………住宅」

そうとしか答えようがないのだ。日本全国津々浦々、あらゆる所に足を運んできたが、埼玉県ほど特徴の無いところはない。バイクでも自転車でも車でも、徒歩でも、ヘリコプターでもいい。なんでもいいから埼玉県をくまなく移動すれば、誰しもが絶対にそう思う筈だ。海もなく山もなく湖沼もなく、行けども行けどもただただ住宅地だけが平べったく果てしなく何十キロも続いていく。
こんなところは埼玉県しかない。
最初は半ば自虐的にそう答えていたのだが、ある時真剣に、もっと何か誇れるものや特徴的なものがないだろうか、考えてみた。そしてその結果、埼玉には何があるんですか、との問いにこう答えることにしたのだ。
「住宅」





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あの日、旅空の下で   5.節約のしどころは

まとめて買えば安くなる、というのは全宇宙共通の鉄則だが、それが余りに極端で頭に来る物もある。
たとえばティッシュペーパーだ。五箱のパックが198円で売られているのに一個で買った方が200円以上したとしたら…いかなる事情があるにせよバカバカしくて買う気にはなれない。しかし、二輪の旅でティッシュ五箱を持ち運ぶことなど出来ない。

だがティッシュなどはまだいい。郵便局で貰えるし、そう頻繁に使うものでもない。もっと日常的に身近で頻繁に消費する物がある。それがペットボトルの茶だ。
自販機やコンビニで150円出してその都度ペットボトルの茶を買うなどというのは愚か者のやる事で、2リットル入りのものが同じく150円~200円程度で買えるわけだから、価格は実に四倍にもなる。こんな馬鹿な話はない。金が無いと騒いだり食事を切り詰めたりしている奴に限ってこういうところに無頓着だったりするのだから、見ていられない。
これは勿論日常生活でも言えることで、私は500mmlのペットボトルを買うということは絶対にしない。酒ディスカウント店などで2リットルを6本入りの箱で買ってくれば価格差は五倍ほどになる。
これを家でコップに注いで飲むのは勿論、仕事に行く時も小旅行に出る時も500mmlのボトルに詰め替えて持って行くのだ。

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そして日本一周の道中でもこれを貫いていた。2リットル入りが空になればスーパーに立ち寄って買い、また少しずつ500mmlのペットボトルに注ぎ込んで飲む。山に登る時やテントの中に持って入る時など常に満タンにしておけるのもいい。
景色の良いところにバイクを停めて休憩する時などは、わざわざキャンプ用のカップに注いで飲む時もあった。のんびりして旅らしい雰囲気が盛り上がってよかった。
それもこれも、この2リットルのボトル専用のバッグのお陰だ。長い紐が付いているので輪っかを作ってフックに引っ掛ければ絶妙に運転姿勢に干渉せず、重い物を積載する位置としても理想的。飲み物を日光に当てずに済むし、まさに一石三鳥だった。旅の初日から最終日までずっと活躍してくれた。勿論次の日本一周にも持っていくつもりだ。





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あの日、旅空の下で   6.買い物袋、コンビニの袋

「すいません、大きめの袋に入れて下さい」
カップラーメン一つだけ買って、何のつもりだろう、ときっと店員は怪訝に思っているだろう。そのカップラーメンをその場で袋から出して、湯を入れて店を出たのだから尚更である。
駐車場の隅っこ、コンビニの軒先の段差に腰掛けて昼飯のカップラーメンを食べ終えた私は、容器と割り箸をそのままで店頭のゴミ箱に突っ込み、ビニール袋は丁寧にたたんでバイクの後部に載せた箱の中に入れ、再び走り出した。

「エコ」だとかいう横文字言葉の下でなら何をやっても許される世の中になった。これまで当たり前の物として渡されてきたスーパーでの買い物袋はいつしか有料になった。
うちは商いをやっているが、別途金を出さない者には商品は包んでやらない、と強固に言われてしまってはどうすることも出来ない。私も最初はそんな風に反感を持ったが、そもそも昔はそれが当たり前で、高級な菓子や土産物ならまだしも、むしろいつから日用品の小売にわざわざ包みを渡すようになったのだろうか。
それはまあどうでもいいとして、今まで無料だった物から金を取ってもいいんだ、お上がいいと言うんだからいいのだ、そうだ正しいのだ、とだけしか考えていないのが見え見えのところも多く、確かに腹立たしくはある。いずれにせよ自分の家での生活なら自前の買い物袋を持参すればいいだけの話なのだが、長旅というとそうもいかないのが面倒なところだ。

もちろん有料のビニル袋に金を出すなどという馬鹿な事は出来ない。では買い物袋を持って旅に出るか。たたんでしまえば嵩も重さも殆ど無きに等しいものである。しかしそれも駄目なのだ。宿に泊まっていいる時ならいい。しかし、夜テントで飲み食いした場合、ゴミをまとめるのにビニル袋が無いことにはどうにもならない。ならばどうやってビニル袋を手に入れるのか。そう、コンビニしかないのである。
コンビニで買い物した時に必ず大きめの袋に入れてもらい、これをとっておく。旅の道中、常に数枚のビニル袋が手元にあった。夕食の買い出しをしにスーパーに入る時、忘れずにポケットの中にこのビニル袋を入れて店内へ。セイコーマートの袋を山口県のスーパーで使った時、移動の実感が強く沸いたのを覚えている。
中には、大きめの袋に入れて下さいと言った時、得たりとばかりに「一番大きい袋を中に入れておきます」と商品と一緒に別途ビニル袋を渡してくれた店員さんもいた。この手馴れた感じ…旅人対応乙。
それがどこのコンビニかって?もちろんオレンジ色のあいつだ(笑)





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あの日、旅空の下で   7.美しき暗黒

圧倒的な暗闇、暗黒だった。
闇に阻まれ、私はそれ以上一歩も先へ進むことが出来なかった。
宿から十数歩。それが限界だった。

周囲を大海原に囲まれ、切り立った断崖絶壁の海岸線から成る、文字通りの絶海の孤島。この日本一周の旅でもっとも鮮烈な印象を残した北大東島の夜は、まさに暗闇だった。
港にほど近い民宿。夕食を食べ終えてしまえばやる事も何も無い。降るような星空に生暖かい風、そして胸の奥底をかすかに、しかしざわざわと確実に不安にさせるような波濤の砕ける音の妖しい魅力に誘われて、散歩に出た。
宿の玄関から歩くこと僅か十数歩、目の前は暗闇だった。いや、全身を暗闇に包まれた。唐突に、こんなにも早く。
港の方まで歩いて行こうなどと考えていたが、到底無理だと分かった。歩いて行く先が完全に真っ暗で、何も見えないのだ。もっとも恐ろしかったのは足元。道の両端が全く見えなくなったことだ。自分が真っ直ぐ歩いているのかさえ、分からなくなる。普段人間は光によって、視覚によって真っ直ぐ歩かせてもらっているという事を理解した。
それでも恐る恐るもう三歩進んでみたが、もう無理だった。振り返ればまだ宿の明かりに照らされ、来し方は何とか道の感じが判る。しかしこれ以上歩を進めればそれすらも分からなくなり、たいへんな事になってしまう。背筋が寒くなった。

好奇心に恐怖が勝り、引き返すしかなかった。しかし、美しかった。
暗闇とはかくも美しいものかと思った。そして、改めて気付いた。普段我々が生活する日本の都市部は不要に明る過ぎるということを。電気の無駄遣いがどうのとか、犯罪がどうのとかそんな事はどうでもいい。夜は暗いからこそ美しい、そんな当たり前の事を忘れてしまっていいのだろうか。
一瞬で恐怖するくらいの暗闇に呑まれ、そしてそれを心底美しいと思った。その経験が出来ただけでも、北大東島を訪れてよかったと、そう思った。





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あの日、旅空の下で   8.旅空の風を持ち帰る

長旅を実感する場面というのは人それぞれ色々とあるのだろうが、旅先で日々の食料や飲料以外の物を購入した時などもその一つだ。

たとえば衣類。私は身に着ける物に興味が無い典型の人間で、冬用の上着は一着しか持っていないが、そのユニクロのダウンジャケットは日本一周の道中で会津若松で買ったものだ。同様に長袖のシャツも。
爪切りもそうだ。三日、四日の旅では爪切りを持つ必要はないが、これが一週間を超えると持ち物一覧の中に爪切りが入ってくる。私は何故か昔から爪切りを持つか持たないかで旅の長さを実感する。爪切りを持って出ると、ある程度以上の本格的な旅の匂いがして嬉しくなるのだ。
その爪切りは北九州は小倉の薬局で買ったものだ。その時は十日間のツーリングだった。当然爪切りは携行品の一覧の中にあったが、忘れてしまったのだった。仕方なく出先で買った。今手元には爪切りが一つしかないが、その時の爪切りだ。それ以前に使っていた爪切りは何処へいったのか、いつしか無くなってしまった。

他にも挙げだせばキリがない。今使っている歯磨き粉は札幌で買った物だし、近所に出掛ける時に履く短パンは石垣島で買った物、薬などは殆ど旅先で買った物で、中でも次に一体いつ使うのかという酔い止めの薬は南大東島で買った物だ。
そんな中でも、特に思い出深いのが携帯電話だ。日常の中で使う頻度が非常に高くいつでも手元にある物の代表格だが、今使っている携帯は石垣島で機種変更した物だ。そういえばデジカメも石垣島に居る時に買い換えた物だった。
私が日常的に使っている物にはこうして遠く旅先で買った物が沢山ある。もともと私は道具は何でも長く大事に使う方だが、その思いもより一層強くなるというものだ。





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あの日、旅空の下で   9.旅は時につれ

日本一周の長い道中で、記念すべき出発のその日から一年半の放浪の果てに帰り着いた日まで、バイクに取り付けたままただの一度も外されることのなかった物が、一つだけある。
それが腕時計だった。
カブのハンドルに、腕時計を巻いていた。防水のG-SHOCK。一度バイクに付けてしまえばあとは何も気にかける必要はなかった。そして、普段から私は腕時計をしたりして出歩くのが嫌いなので、たとえば沖縄の安宿に逗留して何日間もバイクに乗らなかった日々や、バイクを宿に預けたまま一週間の離島の旅に出た時でさえ、その時計はずっとハンドルに巻きっ放しで、外して持ち歩くことはなかった。

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旅を終えて帰着した翌日。全ての荷物をカブから下ろし、そして最後の最後に腕時計を外した時、初めて旅が終わってしまった強烈な実感が湧いてきて、言いようのない寂しさと悲しみに襲われたことを今でも鮮明に覚えている。
では何故腕時計など巻いていたのか。
日が暮れると酒を飲み、夜が明けると目を覚まし、テントをたたんだ。そんな日々の中で、時計など無くても困らないだろう。確かにそうかも知れない。旅の中で、どうしても時間を守って行動しなければならなかったのは、沖縄でバイトをしてカブで通勤していた時を除けば、フェリーに乗る日くらいのものだったろう。
(しかも、沖縄では仕事といえど10分や20分遅刻したところで誰も何も言わないのだが、それはまあそれとして…)

それでも、では時計が無くてもまるで平気かというと、そうはいかないのが難しいところだ。数少ない夜間走行の時にそれを実感した。日が落ちてからバイクで走行していると、ハンドルに巻いた腕時計も見えなくなるので時刻を確認する手段は無くなる。そうすると、出勤時間も仕事の約束も新幹線に乗る予定も無いというのに、にわかに不安になってくるから不思議なものだ。
日本人は世界一時間にうるさい民族だと言われる。
まだ7時か、今朝は早く出発出来たから気持ちがいいな。もう3時半か、そろそろ今夜何処で寝るか決めないと。もちろん仕事に追われる日々とは比べ物にならないが、自由気ままな旅の中であっても日に何度も、頻繁に時刻を確認していた事に気付く。いかにも日本人らしいということか。でもそれもいいだろう。
目の前に広がる自然と共に、日々暦を確認しながら季節の移ろいを実感するように、山影に日が沈むのを眺めながら時計で時刻を確認して、日が短くなったことに気付く。季節や一日一日が美しく鮮やかに移ろう国土に生きるからこそ、時間にうるさい民族性、文化が育ったのかも知れない。





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あの日、旅空の下で   10.あの日の風を忘れない

日本一周の長い旅路の中で、一番感動したのはどの場面か。
そんな事決められない、一番なんて選べない、沢山あり過ぎて全部は思い出せない…きっと色々な答えが返ってくるだろう。しかし私は、はっきりと一番を答えることが出来る。与那国島西崎に到達した時も体が震えるほど感動したが、しかし最も感動したのはやはり何といっても沖縄に下り立ったその時だ。

鹿児島から25時間の航海を経て、人生で初めて踏んだ沖縄の地。長く焦がれた場所に漸く辿り着いたあの晩の鮮烈な記憶は今でも褪せることはない。
過去にも何度か書いてきた通り、私はこの日本一周の旅に出る前にも日本中をくまなく、幾つかの離島を除けばそれこそ行っていないところを探すのが難しいくらいに旅してきた。しかし沖縄だけは別で、この日本一周は沖縄へ行くための日本一周。沖縄以外の部分についてはおまけだった。
そんな沖縄行の直前、私は鹿児島市内の安宿に何をするともなく十日間も滞在していた。宿は安く居心地抜群だった。鹿児島の町や飲み屋街も同様で、毎日歩き回っても飽きることはなかった。折りしも大型の台風が接近していた。そんな幾つかの理由があったが、それよりも何よりも私の中で、この旅の一番の山場、最高の見せ場にすぐに慌しく突入してしまうのが勿体ないという思いがあった。
もったいぶりたかった。ためを作りたかった。

そうやってとうとう辿り着いた憧れの沖縄。まさに感無量だったが、那覇港のフェリー乗り場は鹿児島からの大型フェリーが毎日発着しているとは思えないほど古く小さく、寂れていた。ここ一番の旅情を掻き立てるのには役不足だった。
それでも埠頭に乗り入れたバイクの傍らで何とか実感を噛み締めようとする私に、ふわりと風が来た。まるで私の沖縄上陸を祝福してくれるかのように。
12月のことである。時刻は夜の8時。もちろん内地だったら身を切るような冷たい風なのだろうが、まるで違った。
生温かくてどこか生臭いような澱んだ、それはまさに沖縄の風だった。
この風のお陰で私は初めて鹿児島から800kmの彼方までやって来たという事を強烈に実感した。そして思った。ライダーや旅人は風になる、なんて言葉を聞くが、そんなのキザ過ぎて笑ってしまう。それでもこれだけは間違いない。海の気配も山の気配も、いつだって風が運んでくれた。生活の匂いも、新しい季節の匂いも、海を越えた気候の違いも、いつも風と共にやって来た。
旅はいつでも風と共にある。





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プロフィール

ビート★

Author:ビート★
2009年5月10日、住んでいた部屋を引き払い、250ccのバイクも売り飛ばしてスーパーカブ90で日本一周の旅に出発しました。
道の駅や公園、海辺でテント泊して節約した金を全国の居酒屋巡りと日々のビール代に注ぎ込みつつ、全国を行脚して12月に沖縄に上陸。父親の急病による一時帰郷などを経て、2010年8月3日、念願の日本最西端・与那国島西崎に到達。再び鹿児島からの自走で北上し、2010年10月14日、523日目にして日本一周の旅を完結しました!

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現在、新たな相棒スーパーカブ110を迎え再出発へ向けて準備中です…