旅人ならば、軽自動車のバンで寝泊りしながらの長旅に一度は憧れたという人も多いのではないでしょうか。私ももちろんそうです。長いこと、一度は軽バンを所有したいと思い続けています。
あの小ささでありながら車内で完全に横になって就寝できる軽バンがいかに魅力的な道具であるか、ここで私が語るまでもないでしょう。

昨秋にやっていたアルバイトで会社から預かっていた車が他ならぬ軽バンでした。軽バンの中でももっとも出来が良く、個人的にも一番好きなスズキ・エブリィでなかったのは残念ですが(笑)これは絶好の機会でした。とはいっても仕事で預かっていたものなので乗り回すわけにはいきませんでしたが、休みの日にあれこれ観察してみました。



後部座席をたたんで収納すると、後部は平らで広大な荷室になります。


マミー型の寝袋を敷いてみました。荷室の長さはぎりぎり…というか足の部分が少し折り返してしまいました。私は身長175センチですが、何とか横になって寝られなくもないという感じでした。が、本当にぎりぎりで少々窮屈です。

実は助手席を前に倒したら助手席の部分まで含めて完全に平らになる、という幻想を勝手に抱いていたのですが、そうは甘くはなかったようです。

そこで斜めに寝袋を敷いてみましたが、これならば余裕があって何の問題もありません。折角ならばキャンプ用のマットでなく布団を敷いて寝たいところですが、角が少し折れ曲がるようにはなりそうですが、何とかいけるでしょう。こんな事を考えているだけでも楽しくなってきます。
言うまでもないことですが、日中に行動している時は、自由度の高さにおいてバイクや自転車の方が遥かに上です。しかし夜になるとこれが逆転します。車内でしっかりと休息できる軽バンの方が自由度が高くなります。それは、物理的、社会的両面においてです。
バイクや自転車の場合は、たとえば雨の日など折角温泉に入ってもその後また雨に打たれて寝床まで移動するのは憂鬱なものですが、車ならばその心配は一切無くなります。風が強い日や寒い日でも、そんなことを心配する必要もないでしょう。
そしてバイクや自転車の旅では、雨や風を凌げる場所を見付けたとしても、そこが公然とテントを張っていい所なのかどうかという面倒な問題を解決しなければなりません。いや日々夕方が近付くと、この仕事に追われると言っても過言ではありません。テント泊を前提とするバイクや自転車の旅においてもっとも大変なところです。
これに対して軽バンならば、車を停められる場所さえあればどんな所でも自在に夜を明かせます。たとえば道の駅など、雨を凌げる屋根の下にテントを張っていいと許可をもらったとしても、夜中にならず者が集まってくれば今度は盗難や悪戯を心配しておちおち寝てもいられません。車ならばそのような心配も要らないのです。
かように走る寝床とも言える魅力的な軽バンですが、二輪に対してもっとも不利なのは沖縄や離島へ行きづらいことでしょう。たとえば鹿児島から那覇までフェリーで航送しようとした時、原付だと料金は5,700円ですが、これが車だと軽であっても何と十倍の5万5千円もかかります。
一方で北海道は航送料金も手頃だし、道も広いし車を停める所も幾らでもあるので車の旅に向いていると言えます。沖縄については自走して愛車と共に上陸、というのを諦めさえすれば軽バンの旅は非常に魅力的だと言えます。
さてここからは完全なる個人的な趣味ですが、軽バンと同じような考え方でもう少し大きな車、たとえばハイエースや2トントラックを土台にしたキャンピングカーなどがありますが、私はこれらを好みません。軽自動車という潔さが好きなのです。
根本的な話をしてしまえば、日本の軽自動車制度なんて悪法もいいところで、世界の自動車史における汚点とも言える恥ずべきものです。そしてそこから生まれた現代の軽自動車は、機械としてはまことに非合理で不自然なものです。しかし一方で、あるだけのもので何とかする、限られた条件下で知恵を絞って工夫をする故の発展を生んだとも言えます。そしてこれは日本人の美徳と一致するものでもあります。

その結果何が生まれたか。軽自動車の特にこのような商用バンは、姿形が美しいのです。寸法をはじめとして様々な制約がある中で、最大限の積載性やその他の色々な面においても機能を高め、質を追求する。だから一切の虚飾が無く合理一辺倒、まさに機能美の極みです。スポーツカーやコンパクトカーにおいて日本車にはこれまでに数々の美しい車がありますが、軽バンのデザインはそれらの名車に比肩するくらい素晴らしいです。
また、軽バンはある面においてはとても安全な自動車だと言えます。全方位において視界がたいへん良く、車の四隅を常にはっきりと把握できるし死角が少ないのです。この美点は特に後進時に発揮され、あらゆる車の中でもっとも安全にバック出来るのは軽のバンだと私は思っています。
また、身長175センチの私では荷室で寝るのがぎりぎりだと言いましたが、軽バンでは少々狭いからタウンエースにしようとか、そういう発想を持ち出すと人間はとかく拡大志向に走りがちです。タウンエースよりはハイエースが欲しくなり、ハイエースよりはキャンピングカー…そうすると自宅と変わらぬ立派な台所や大きな冷蔵庫が欲しくなり、やがてはテレビだ絨毯だと本質から逸脱し、車もどんどん重くなります。
旅を人生の中心に考え、自宅でも持ち物を極限まで減らして生活したいという私のような人間にはこういうのは合いません。それよりも、軽では狭いというのなら狭く感じない工夫をあれこれ考える方が性に合っています。軽の潔さを好むといった理由がこれです。
ついでに言うと、後輪駆動でMT車が選べるところもたまりません。もはや完全に車好きの戯言になってきましたが、後輪駆動の良さは言わずもがな、MT車は残念ながら我が国においては絶滅危惧種ですが、現代においてももっとも合理的な変速機がマニュアルトランスミッションであることには変わりありません。
車内で横になって寝られるぎりぎりの大きさ、最低限の装備、マニュアルトランスミッション…皮肉なことに主に動力性能において非合理で不自然な機械ではありますが、少なくともこれらの面においては合理的で、簡潔で、虚飾がありません。そんな軽バンは旅の足として絶大な魅力があります。そしてそれはスーパーカブにそのまま通ずるものです。
こんな風に書いていたら改めて軽バンが欲しくなってきました。ですが、ひとまずそれは次の日本一周を終えてから考えましょう。しかし死ぬまでには一度所有してみたいものです。もちろん単に所有するだけでなく、後部の荷室にささやかな寝具を積み込んで、あらゆる所へ走って行きたいです。
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